暖かい場所で眠る犬

☆毎日朝から晩まで古くて巨大な工場みたいな、日当たりの悪い職場の隅っこで線と線をつなげて絵を描いてます。工場はとても巨大で構造が複雑で、自分の働いている場所以外のことを私は何も知らない。白い塗料がところどころ剥げ落ちた壁にパイプがずっと張り付いている。構内にある廃工場の横を通り、薄暗い廊下を抜けて自分の持ち場に帰る。私の働いている部屋がある建物も未だにあちこち工事中で、古めかしい「危険 立ち入り禁止」の看板が立てられて辿り着けない場所がたくさんある。マップのないダンジョンの一角で私は働いている。私は女工
朝起きてお湯を湧かし、赤い魔法瓶にお茶をいれて職場に向かう。職場は灰色だけど、赤い魔法瓶のふたを開けて湯気が外に出るときだけは、私の周りに毛布みたいな明るい柔らかい色が少しだけ差す。一日の労働が終わり、正門に向かう道の上は馬鹿みたいに開けていて、真っ暗闇だったり夕焼けだったり灰色雲だったりがいつも私を圧倒する。イラレが使えて面白そうだったからという理由だけで選んだ仕事で、まだ何も分からないけど、環境だけは私の好みにぴったりだということは間違いない。
☆昨日は帰りがやたら遅くなってしまい、おうちに着いてからの楽しみといえば紙袋に入ったラスクの残りとにんじんとほうれんそうのポタージュと、犬世界への旅であった。ドイツの森の中をうろうろして、民家の扉を叩いて物乞いをしてみたり、チェルノブイリのゴーストタウンをさまよってみたり、たくさんの犬達がピラミッドの周りで数字を読んでよく分からないことをしているのを横目に「俺より強いやつに会いに行く」という言葉を残してどこかへ旅立ったりした。一昨日は阿佐ヶ谷の音くんちに遊びに行ったら臼杵さんがいて、なんかずっと「ここだ」と言ってた。台湾の賑やかな場所を寝床にして、目をつぶるときに寂しくないようにする。うるさくて暑苦しくて目が覚めるくらいがちょうどいいのだ。