海と長靴

土曜日は体調がすぐれず日がな寝そべって過ごした。雨が降ったり止んだりの薄暗い天気のおかげで、密室に白痴の子供のような兎と一緒に閉じ込められ、埃の積もった床の上で死んだようにじっとしていた。不良の美少女がウィ、パパ!と独り言を言う本を読んで、うたたねをして、動けなくなる直前まで空腹に耐える。
夕方、ごはんを食べに外に出た。新鮮だが生温くて重たい空気。ベッドを触ったり、カーテンやシーツなどを眺め、ノートに理想の家の間取りを書くような遊びをする。私はぬるいファンタを飲んで、まぶしいくらいにしあわせそうな人たちをたくさん見て、とても惨めな気持ちだった。雨に濡れててらてらと光る道路を車は走り、行けるところまで、一番端っこまで行ってみた。真っ黒い海と車両通行止めの看板を見た。雨に備えた私の長靴がとても愚鈍に見え、私も長靴も同じくらいかわいそうだった。遠くで騒いでいる女の子の華奢なサンダルが、まるで幻想のようだった。しあわせも華奢なサンダルも私にはまるで遠い世界の話。美しい影絵。轟音と真っ黒な海と空は恐怖でしかなかった。遠くから花火の音と断末魔の声のような嬌声が聞こえる。私と長靴は海に立ち向かったけど、もしあの時あと少しでも高い波がきて、長靴の中に冷たい海水と砂粒が容赦なく入り込んだなら、私は何か黒いものにゴボゴボと溺れて2メートルもある水死体になったことであろう。腐乱して丸く膨らんだ私の意識が、ものすごい匂いを放ちながら天気の良い日に浜辺に流れ着く。ゴムで作られた盾に波はどんどんぶつかって、私は強風に煽られながら長い間仁王立ちになって、海の振動を感じていた。