本当の名前

実家の自室の棚を少し見ていると、なにやらいろんな予感がしたのですぐにやめてしまった。子供のときに買ってもらったぬいぐるみの名前が「ピクモグ」というものだったことを初めて知った。タグに「pikumogu」と書いてある(スイッチを押すと鼻がぴくぴく動くウサギのぬいぐるみだ)。私は長い長い時間を過ぎて、ようやく本当の名前を知ったのである。それは、水槽の中に小さなアロワナを飼っていたら気が付けば取り出すことのできないくらい大きな白い魚になってしまったような、庭の隅っこに置いていたザリガニの水槽を覗き込むと白くて半透明のザリガニが生まれていたような、冷蔵庫の中に入れておいた筍のことを忘れていたらいつの間にか山を覆うような大きな竹になってしまったような、暗い廊下の突き当たりにある滅多に足を踏み入れない和室に、病気のお母さんが寝ていたことをすっかり忘れていたような、そういう怖くて悲しい夢に似ている。