道の向こうにあるもの

昨日は恐ろしいくらいの満月で、夜空には雲ひとつなく山の稜線が驚くほどにはっきりと見えた。暗闇の中を歩いても地面にうつる影がきれいに見える。「猫峠」というちょっと怖い名前の峠を通るが、人も猫もヤマピカリャーもいなかった。奇妙なくらいにお地蔵様がたくさんいる道だった。時折見かける民家も、夜10時には完全に消灯してしまっている。自販機でジュースを買っていると大きな犬に吠えられた。真っ黒い川を橋の欄干にもたれかかって見ていると、影絵のような鳥が一羽飛んでいった。私はこういう場所に実家があってほしくて仕方ないのだが、残念ながら私の実家は普通の町に、住宅地ともつかない寂れた町にあるのだ。誰かこういう場所にご実家があって里帰りする人はいませんか。私も一緒に里帰りさせてください!
今日は、昨日とはうってかわって曇り空の夜だった。いつも通る道を面白がって曲がってみたら全然予想もしていなかったような光景が広がった。道を一本奥に入っただけで真っ暗な異世界になるのが面白く、どんどん車で進んだ。お茶畑や果樹園や、まだ刈り取りの終わらない田んぼ、それから荒れ果てた空き地に生える雑草が車のライトに照らされる。小さな羽虫が雪みたいにちらちら照らされる。私は道をひとつ曲がるだけで楽しくて仕方がない。するめを齧りながら帰った。