工場の月

土曜日は尾平にあるという廃村を探しに出かけたけど時間切れになってしまい、竹田をうろうろした。荒城の月のモデルになった城跡があるというので行ってみたら、夕闇の中に桜がたくさん咲いていた。桜が桜がと言いながら(他にいったい何を話せばいいのか)歩いてたら本丸があったところに滝廉太郎銅像があった。頭がやたら小さかった。私は小さい声で歌って、そうそうこれは眠る盃、確かに眠たい感じだとか、中野のマンションにライオンが住んでいた話だとか、いろいろなことを思い出した。大分のどこかのチャンネルで番組終了後の映像にこのお城が写っていたらしく、やはりここは眠たい場所なのだろうと思った。暗くなって辺りが段々色褪せてきたので、滝廉太郎の霊に呪い殺さるっばい!とあわてて車に戻った。一度誰かに呪われてみたい。この日、私が見たものはただの石垣だったけど、きっと昔はもっと生々しい痕跡がある場所だったのだろう。エロ本とか落ちてたかもしれない。日曜の夜は海の向こうに立ち並ぶ工場を見た。雨が降ってて、カメラのファインダから見せてもらったけどあまりに遠く、どんなに近付きたくてもどんなに夢を見ても辿り着くことができない。巨大な蛾の背中に乗って、柔らかい産毛に体を埋もらせて大気圏だって突破できるはずなのに、英国紳士でも小学生でも何でもない私はどこにも行けないのだ。巨大な煙突からは月よりも赤い炎が出ていた。