膨らむ直前の餅にも似ている

自分の姿を鏡で見て、腐り落ちる直前の何かのようだと思った。腐り落ちる寸前の果物というには、むせ返るような甘い香りも表面に触れるだけで汁の滲み出る果肉もないわけだが、ならば何に例えるかといえば、深夜の電話ボックスで使用済みテレカを何度も電話機に差し込み続けるスーツ姿の女の人だとか、夜道を一人で歩いていて後ろから人に追い抜かれる直前の表情だとか、小学3年生のときに家で友達4人とこっくりさんをしていたときに誰か一人が鉛筆を手放してしまった瞬間の全員の顔だとか(私の住んでた地域では十円玉ではなくて鉛筆でこっくりさんをしていた)、ピーチジョンに載ってる阿婆擦れ直前の下着だとか、髭のマスターがいる近所の喫茶店だとか、私はそういうものに似ている。マノさんが蔓のびっしりからまった技術会館にそっくりなのと同じくらい似ている。毛が生えた腕と技術会館の壁を交互に見比べて、思わず感嘆の声を上げるくらい似ている。しかし、夜になる一瞬は永遠と思われるほどに続き、星々は錆び付いた音を立てるばかりであるので、私が地上に腐り落ちてしまう瞬間もおそらく永遠のようにやってこないであろう。そいで気がついたらもう取り返しのつかないくらい真夜中なの!キャーこわいこわい。真っ暗な森の中で迷子になって泣いている姿を村人が見て妖怪が出たって噂する。思うに、魂は衰えることはないのに肉体ばかりが衰えるので、お化けは多分いる。この思考の欠点は「肉体が滅びた時に脳みそも滅びる」ということです。脳みそは太古の昔からこのように我々を支配し蹂躙し続けているので、一刻も早く交差点の真ん中で踏み潰すべきであると、昨日職場にやってきたものすごく髪が真っ黒で長い男性がくれた小冊子に書いてあった。あと国道沿いのエログッズ自販機コーナーの壁にも書いてあった。子供の頃は「今は体が小さいだけで頭は大人と同じだ」と思ってたし、きっと60年後も「今は体が衰えているだけで頭はしっかりしている」って思っているだろうね私は。