石榴

石榴は土の上に落ちて汚れた。すでに暗くなり始めた庭で、大きすぎるシャベルを使って順子を埋めた。骸を包んだ白い布が次第に見えなくなっていく。私は焦ったようにどんどん土をかぶせた。靴に砂が入り、手が滑って、落ち着かなかった。ふと足下を見るとそこにも石榴が落ちていた。真っ赤な粒がこぼれている。庭の片隅には石榴の木があって、その存在を今まで私達は誰一人として知らなかった。誰が植えたのか、誰の記憶にもない木。今までその石榴は一度たりとも実をつけたことがなかったのである。父が育ち、母が嫁入りして、私と妹が出ていくまで、ずっと実をつけたことはなかった。懐中電灯で上の方の枝を照らすと、何かの間違いみたいにたくさんの実がなっている。その石榴の木のふもとに深く穴を掘り、順子を埋める。懐中電灯の明かりの中に最後の白い一片が見えたのはほんの一瞬のことで、ためらうことなく土はどんどんかぶせられていく。真夜中の墓荒らしみたいな影が3つ、ゆらゆらと動いた。盛り土をしてその上に線香を立てる。煙は細く立ち上ったけど、薄くぼやけて消えた。枝まではとても届きっこない。私はあまり汚れてない石榴の実をひとつ拾って、部屋に戻った。暗闇の中で見ると気持ち悪いもののように見えた赤い実は、明るいところで見ると透明でとてもきれいで、何かの宝石みたいだった。一粒ずつちぎって口の中に入れるけど、甘い水分がほんの少し出るだけで全然満たされない。甘く青臭い液体は一瞬で溶けて消えた。私は石榴を手にしたまま、壁にもたれかかって窓から庭を眺めた。和室の明かりもつけず、暗がりの中で甘い粒を口の中に入れる。木や草の間から線香の灯りが小さく赤く見える。いつまでもだらしなく口の中に粒を放り込みながら窓の外を眺めていたけど、気がつけば赤い灯りは消えて、庭はただ一面に塗りつぶされた暗闇になっていた。べたべたするピンクの液体は手や指を汚すばかりで私は全然満たされない。いつしか薄い煙の匂いも消えて、私は諦めて窓際を立ち去った。